編み手インタビュー vol.5 いろいろ世田谷 Cさん:個性が活きる。メリハリが生まれる。布ぞうりづくりという選択肢
「ふっくら布ぞうりの会」では、さまざまな事情を抱えながらも、自分のペースで布ぞうりづくりに取り組む編み手のみなさんが活躍しています。今回、新しい編み手と出会い、育成するためのクラウド・ファンディング実施にあわせて、編み手のみなさんにお話をうかがいました。布ぞうりづくりに出会ったきっかけ、続けられている理由、暮らしの中で感じている変化、そしてこれから参加してみたい方へのメッセージ。編み手歴10か月の新人Cさんにお話を伺いました。
◆「これは自分に向いている」そんな直感から始まった
── 布ぞうりづくりを始めたきっかけを聞かせてください
昨年10月に、世田谷区の支援窓口に相談していることがありました。面談に行ったときに、ふっくら布ぞうりのパンフレットが置いてあったんです。
それがものすごく気になってしまって(笑)。もともと相談していた内容とはまったく関係なかったので、「それは小川さんには関係ないですよ」と言われたんですが、「私、こっちの方が気になります」とお話ししたんです。
そのときに、「これは絶対に自分に向いている」と思いました。
そこから、一番近くで開催されていたワークショップに参加したのが始まりです。
── 実際に参加してみて、どんな印象でしたか?
もちろん最初は、パンフレットに載っているような布ぞうりは全然作れませんでした。
でも、不思議と「数を作れば、きっとこうなるんだろうな」と思えたんです。
私は発達障害があり、自分の向き不向きについてはある程度わかっています。手先を使うことや、繰り返し作業を続けることは得意な方なんですね。
だから、自分の個性が活かせる活動だと思いましたし、頑張ったことがちゃんと形になっていくところにも魅力を感じました。それで、もともと相談していたことはそのまま保留にして、布ぞうりを編み始めることにしました。
── 編み手になってみて、どんな発見がありましたか?
最初は、ほかにもたくさんの編み手さんがいることも知らなかったんです。ただ単純に、「自分に向いていることが見つかった」という気持ちでした。
また、布や鼻緒の色合わせを自由に選べると聞いて、それも面白いなと思いました。
始める前には家族にもホームページを見てもらったのですが、「布ぞうりってもっとワンパターンなものかと思ったら違うね」と言われました。やさしい色合いのものもあれば、スタイリッシュな組み合わせもあって、おしゃれだね、と。
ホームページも見やすいと家族からお墨付きをもらえたので、無事にチェックをくぐり抜けました(笑)。
ふっくら布ぞうりshopに並ぶカラフルで個性豊かな布ぞうり(https://fukkura-shop.com/)
◆ 暮らしにメリハリを生んだ布ぞうりづくり
── 普段はどのようなペースで制作されているのですか?
本業ではイラストレーターをしています。イラストも布ぞうりも、どちらも目と頭を使うので、あまり疲れすぎないように気をつけています。
朝、仕事を始める前に1時間ほど編んで、夜には鼻緒を作ることが多いですね。
ただ、私は集中しすぎる傾向があるので、必ずタイマーをかけています。面白いと時間を忘れてしまうんですよ(笑)。この半年はずっと試行錯誤でした。
1日に2時間ほどなので量産はできませんが、先輩の編み手さんから「量より丁寧さでいい」と言っていただいて、それが励みになりました。6月、7月はイラストの仕事が忙しかったのですが、1か月に4足作ることができました。
── 布ぞうりと出会って、生活の中で変わったことはありますか?
一番大きいのは、無駄に考える時間が減ったことです。暇な時間があると、どうしても悪い方に考えてしまったり、心配ごとが増えてしまったりするんですが、布ぞうりと出会ってからはそういう時間が少なくなりました。編んでいるときは目の前の作業に集中していますからね。
それから、仕事関係とは違う居場所ができたことも大きいと思います。どうしても仕事の人間関係は似た方が多くなりますが、ここではまったく違う背景を持った方たちと出会うことができます。私はまだ新参者なので緊張することもありますが、それも含めて新鮮ですね。
◆ 上達したい。その気持ちが原動力だった
── 初めて「買い取ります」と言われたときのお気持ちは?
実は今日が初めてだったんです。
これまでは長野の善光寺で開催される「びんずる市」で販売していただいていました。工藤さんから毎月売上の連絡をいただくのですが、「小川さんの作品も売れていますよ」と教えていただいて、とても嬉しかったですね。
今回持ってきた布ぞうりは、その頃よりも少し上手にできた実感がありました。企業向けのお客様に納品していただけるそうなので、それも嬉しいです。自分が作ったものが売れて、どこかで誰かに使っていただける。そう考えると励みになりますね。
── 上達する中で苦労したことはありましたか?
ありました。最初は「すごく楽しそう」と思って始めたんですが、やはり思うように編めない時期もありました。
上級者の方の布ぞうりを見本として見せていただいていたんですが、本当に驚きました。編み目はきれいに揃っていますし、裏側の処理もものすごく丁寧なんです。人間が作ったというより、機械で作ったんじゃないかと思うくらいでした(笑)。当然、自分の作品との差は大きかったですね。
── それをどのように乗り越えたのですか?
実は、見本としていただいた布ぞうりを分解したんです。もちろん元に戻せなくなるかもしれないと思いましたが、それでも上手になりたかったんです。
まず四方八方から写真を撮って、きれいな状態を記録してから分解しました。どういう力加減で編んでいるのか。どうやって最後の処理をしているのか。表から見えない部分はどうなっているのか。実際に分解してみると、上手に作るための工夫がたくさん見えてきました。
◆ 自分のペースで続けながら、少しずつ前へ
── この活動の中で、特に気に入っているところはありますか?
私は過集中の傾向があるので、家族からも「やり過ぎないようにね」と言われています。だからタイマーを使って、1時間で必ず区切るようにしています。そうやって続けているうちに、「1時間でもかなり集中できるんだな」ということが分かりました。実はそれが、本業のイラストの仕事にも役立っています。
それから考え方も少し変わりました。自分では上手にできたと思っていても、見本を見ると落ち込むことがあるんです。でも最近は、「今の自分なりに精一杯やったのだから、これでよしにしよう」と思えるようになりました。
布ぞうりづくりは、技術だけでなく、そうした考え方の練習にもなっているように感じています。
──どのような人が布ぞうりづくりに向いていると思いますか?
手先が器用な方は向いていると思います。また、色の組み合わせを考えるのが好きな方にも向いているのではないでしょうか。私には、お洋服と着物や帯の組み合わせを考える感覚に少し似ているように思えます。
一緒に練習している方たちが選ぶ色合わせも、自分とは全然違っていて面白いんです。同じ材料を使っていても、それぞれの個性が出るところが魅力だと思います。
──これから参加を考えている方へメッセージをお願いします。
新しい方が参加してくださるといいですよね。私自身、布ぞうりづくりを始めてから忙しくはなりましたが、生活にメリハリがつきました。
目の前のことだけ考えている時間があるので、暇だから悩む、ということが少なくなったように思います。それぞれに得意なことや特性があると思いますが、ここにはそれを活かせる場面があるのではないでしょうか。
── これからの目標を聞かせください。
私はマルチタスクがあまり得意ではありません。だからこそ、この活動の「無理なく」「ノルマなく」続けられるところが自分に合っていると思っています。
編み手さんたちも、それぞれ違う特徴を持っています。自分なりのやり方やペースを見つけながら続けられることが、この活動のよいところではないでしょうか。私自身も、これから無理のないペースで続けながら、少しずつ腕を上げていきたいと思っています。
