編み手インタビュー vol.3 いろいろ世田谷 Aさん:誰かを支える暮らしのなかで、自分のペースで編み続け、腕を磨く
「ふっくら布ぞうりの会」では、さまざまな事情を抱えながらも、自分のペースで布ぞうりづくりに取り組む編み手のみなさんが活躍しています。布ぞうりづくりに出会ったきっかけ、続けられている理由、暮らしの中で感じている変化について聞きました。
今回は、編み手歴5年のベテラン、Aさんにお話を伺いました。
◆ 偶然の出会いが、5年続く活動に
── 布ぞうりづくりを始めたきっかけを聞かせてください。
今、夫が病気で週3回の透析に通っています。それ以外にも通院が必要で、体調に波があるんです。
そんな中で、夫が世田谷区の相談先に行った際、「もし奥さんが手先が器用なら、こういう活動がありますよ」と布ぞうりづくりを紹介されました。
それで、ふっくら布ぞうりの会の代表をされている工藤さんが「ぷらっとホーム世田谷」で開いていたぞうりづくりの講習会に参加してみたんです。2021年、ちょうどコロナ禍の頃でした。
最初はふっくら布ぞうりではなく、もっと簡単なぞうりを作るワークショップでした。でもやってみると、とても面白かったんです。余計なことを考えなくていいですし、集中していると時間があっという間に過ぎてしまうんですよね。
その会場に見本として置かれていたのが、ふっくら布ぞうりでした。
「こっちのぞうりは作れないのかな」
そんなふうに興味を持ったことがきっかけで、工藤さんに声をかけていただき、本格的な布ぞうりづくりに参加するようになりました。
── 限られた状況のなか、普段はどのようなペースで布ぞうりを作っているのですか?
決まった時間に作業するというよりは、自分の空いている時間に作っています。
夫の付き添いで病院へ行くこともありますし、急に体調が変わることもあります。そのため、私自身が自由に動ける状態でいる必要があるんですね。
布ぞうりは空いた時間に作れますし、頑張った分だけ内職賃もいただけます。そういう意味でも、自分の生活にはとても合っていました。
時間がある日は一気に一足仕上げることもありますが、私は途中で手を止めて別の用事をしなければいけないことも多いので、少しずつ進めることの方が多いですね。
また、自分の好きな色の組み合わせを考えたり、鼻緒を選んだりできるので、それも楽しみの一つです。同じ布ぞうりでも、それぞれの個性が出るんですよ。
◆ 続けるほど増えていく「嬉しい段階」
── 販売できる品質の布ぞうりを作れるようになるまで、どのくらいかかりましたか?
人によって違うと思いますが、私の場合は3月末頃に誘っていただいて、8月頃には「買い取ります」と言われたように記憶しています。
「買い取り」というのは、製品として販売できるレベルになったということなんですね。
編み手は月に2回ほど集まっていて、その場でアドバイスをもらったり、上手な方の作品を見たりしながら上達していきます。私も最初の頃はできるだけ参加していました。
家に帰ると聞いたことを忘れてしまうじゃないですか(笑)。だから間を空けずに参加した方が上達は早いように思います。
皆さん半年くらいで販売できるレベルになっていく印象ですが、オンラインショップに掲載される作品になるには、さらに経験を重ねていく必要がありますね。
── ご自身の作品が販売されるようになって、どんなことが嬉しかったですか?
布ぞうりづくりには、いくつも嬉しい段階があるんです。
まずは、一つできるようになること。そして鼻緒に、ふっくら布ぞうりのブランドタグを付けていいと言われること。さらに「これは買い取りね」と言ってもらえること。
まだ少し形が不揃いでも販売できると判断された作品は、下北沢や三軒茶屋、信州などで開かれるイベントに並びます。そこで売れたと聞くと、また嬉しいんですよね。
そしてオンラインショップに掲載されて、実際に売れたという連絡をいただくと、本当に励みになります。
続けていると特注品の依頼をいただくこともあります。今日も、baby布ぞうりの制作を頼まれていました。九州には、一歳のお祝いで一升餅を床に置いて わらじを履いてその上を歩く「餅踏み」という風習があるそうで、そのための小さい白い布ぞうりなんです。
企業のイベント用にまとまった注文が入ることもあります。世田谷チームだけでなく他の地域のチームと協力して制作するのですが、そのメンバーに加えていただけるのも嬉しいですね。
自分が作ったものが誰かに使われることって、普段の生活ではなかなか経験できません。だからこそ、大きなやりがいにつながっているのだと思います。
◆ 編み手仲間とのつながり、そして焦らず続けること
── 編み手の皆さんとの交流も、この活動の魅力でしょうか?
そう思います。
参加している方は年齢も生活環境も本当にさまざまです。若い方もいれば年配の方もいますし、それぞれ違う暮らしをされています。
だからこそ気が楽なんです。
以前、「何かあったらここで話していけばいいじゃない」と言っていた先輩がいました。家に帰ればみんなそれぞれの生活に戻るから、ここで話したことをずっと気にする必要はない、と。
体調のことを相談すると経験談を聞かせてもらえますし、作業で分からないことがあれば教えてもらえます。
最近は一緒に編む機会も増えて、新しく参加された方とも交流できるようになっています。そういうつながりがあるのも、この活動の良さだと思います。

月に2回集まる納品会
── 布ぞうりづくりは、暮らしにどんな変化をもたらしましたか?
私はもともと、「これを作ってね」「いつまでにお願いね」と頼まれる方が性格的には合っているんです。
もちろん、どうしても難しい時に期限が重なると大変なこともありますけれど(笑)。
それでも、誰かに頼りにしていただけることは嬉しいですし、自分が役に立てているという実感にもつながっています。
また、布ぞうりを編んでいる時間は、日常のさまざまなことを少し忘れられる時間でもあります。
無になるというのでしょうか。布ぞうりを作っている時は、「ここをこう動かそう」と作業に集中しているので、余計なことを考えなくて済むんです。
そういう時間があるのも、私にとっては大切ですね。
──どのような方が、布ぞうりづくりに向いていると思いますか?
ミシンを使える方や洋裁が好きな方は、入りやすいかもしれません。実際、編み手さんにはミシンをお持ちの方が多いと思います。
でも、それが絶対条件ではありません。
器用であるに越したことはないですけれど、ものづくりが好きな方なら大丈夫だと思います。
丁寧に編もうと思いながら続けていれば、きっと上達していきます。
焦らず、ゆっくり。
速さは後からついてくるものだと思いますね。
── これから参加を考えている方へメッセージをお願いします。
難しく考えず、とにかく楽しんでほしいですね。
上達のスピードは人それぞれです。上手な人の作品を見ると比べてしまったり、焦ったりすることもあります。私も最初の頃はそうでした。
でも、人と比べる必要はありません。
「できればいいじゃない」
そのくらいの気持ちでいいと思うんです。ゆっくりでも、丁寧に続けていけば、きれいな布ぞうりが作れるようになります。
焦らず、自分のペースで。ものづくりが好きな方なら、きっと楽しめると思います。
インタビュー ⚫︎ 松原 朋子


